研究概要 |
本年度は,次の2点つまり,(1)「福祉の複合体」をめぐるウェッブ,ボザンケ,ベヴァリッジらの対立点を,市場,中間組織,国家のみならず,地方・政府というファクターを導入して再検討すること,(2)1920年代に戦時統制経済の平時利用という観点について,それが,20世紀初頭のウェッブらの「国民的効率」運動からの発展であるのか,歴史状況に即した修正であるのかを確認し,ベヴァレッジなどの経済政策思想における国家の位置づけを比較する,という計画で研究を進めた。(1)については,ウェッブとボザンケの『救貧法報告』(1909)の内容に肉薄し,両者の差異が従来言われてきたように,福祉国家に対する進歩派,保守派の対立ではなく,世紀初頭の福祉行政再編における財政原則をめぐる「行政学」的な対立だったことを解明した。ボザンケの抑止的「扶助当局」創設案は,近代的福祉サービス提供にあたっての財政支出への歯止め策であり,ウェッブは,地方自治体が福祉サービスを担うにあたって,それを「予防は投資」すなわち財政節約から再編しようとした点を解明した。なお,ウェッブのナショナル・ミニマム論は,「国庫補助金」によるインセンティブ・デザインでもあり,単なる財政調整=再配分ではなかったことも解明した。(2)の課題については視座を修正し,当初予定を超えて,戦後のアトリー内閣における福祉国家形成における「計画化」の観点まで射程を広げ,これを産業政策の観点から見直すことで,1920年代からさらには1960年代にいたる福祉国家戦略の中に,位置づけ直す必要があるという知見を得た。「国民的効率」運動に象徴されるフェビアンの福祉国家再編論は,戦後のイギリス経済政策・福祉国家政策においても,特に,対米関係を考えた際には,無視できないファクターになっていくという点で,戦間期との連続性において捉え直す必要性のもとで,次年度の課題とすることにした。
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