本研究の目的は、マクロ経済学で広範に用いられるIS-LMモデル(ないしAD-ASモデル)を、経済主体の最適化行動を前提し、ロバートソン的な支払いラグを取り入れた一般(不)均衡モデルとして再構築し、政策論への応用をはかることである。昨年度は、家計の最適化行動を考慮した基本モデルを定式化し、そのマクロ経済政策へ含意を明らかにした。本年度は、基本モデルのいっそうの拡張と精緻化を進め、そこから得られるいくつかの重要な関係に関する実証研究に着手した。第1に、昨年度に準備的考察を行った国際マクロ経済モデルを完成した。これは、内外の財、内外の通貨、国際的な資本・為替市場の存在を考慮したマクロ経済モデルであり、よく知られたマンデル・フレミングモデルを精緻化したものである。これによってミクロ的基礎付けを持ち、開放経済下のマクロ政策論に利用可能な理論が得られた。第2に、これらの成果を踏まえて、企業と銀行の最適化行動を前提し、中央銀行が利子率を目標変数として行動するという現実的な想定のもとに、周知のAD-ASモデルを修正し、拡張IS-LMモデルないし拡張マンデル・フレミングモデルとして定式化した。このモデルによって、現在の日本経済をめぐる論議(インフレ目標論、貸し渋りのマクロ経済分析など)に光を投じ、ケインズ理論を再評価することができた。
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