本年度は、以下の3点につき研究を行った。第1に、老人保健が適用になると被保険者の医療サービス需要量はどのように変化するか、医師の側の医療サービス供給量はどのように変化するかについて実証分析を行った。老人保健制度の適用が受けられるようになると、患者は通院回数で計られた医療需要を増やす傾向があることがわかった。また、出来高払い制の下で1日当り点数が600点以下の患者を抱える医療機関は、包括払いを選択しその結果医療費の請求額が増加していることが明らかになった。第2に国保の保険財務データを用いて、医療サービス生産の費用関数を推定し、中央政府からの補助金が費用効率性にどのような影響を与えているのかについて実証分析を行った。Stochastic frontier modelを用いて費用関数を推定した結果、国や都道府県からの国保に対する補助金が非効率性を助長している可能性が示された。第3に、家族の中で誰がどれだけ医療サービスを消費しているのかを、健康リスクや所得リスクというアイデアを用いて実証分析を行った。健康リスクとは、家族の一員が病気になるかもしれないリスクであり、所得リスクとは、将来の家計の所得が少なくなるかもしれないリスクである。ある保険組合のデータを用いて分析した結果、他の条件を一定にすると、家族の人数が多くなると被保険者本人も扶養家族も受診を少なくするという意味で、健康リスクをシェアしているということがわかった。また、被保険者本人の自己負担率のみが上昇しても被保険者本人は受診を控えることはなく、扶養家族の受診が抑制されたことから、所得リスクは扶養家族のみがシェアしているということがわかった。
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