研究概要 |
アジア太平洋地域10カ国の国際産業連関表データをもとに昨年度構築した一般均衡モデルに対して以下の拡張をおこない域内貿易の構造ならびに賃金変動の波及プロセスを実証的に分析した。 (1)実質賃金率による労働市場の需給調整メカニズムを考慮し,賃金を内生化した。具体的にはコブ・ダグラス関数をもとに短期利潤最大化基準から各産業の労働需要を生産物価格,賃金率の関数として表し,生産物市場のみならず10カ国の労働市場をも同時に均衡させる生産物価格と賃金率を決定するモデルを構築した。労働市場を内生とした場合でも,モデルの超過供給関数のヤコブ行列はドミナントダイアゴナルであり,均衡の安定性を確認することができた。また,各国の労働供給の増加の影響を比較静学によって分析した結果は,中国の賃金が,いずれの国の労働市場の需給変動に対してもきわめて敏感であり,タイ,フィリピンなどがそれに続くことを示した。逆に日本,アメリカなどの経済発展が進んだ経済では他国・自国を問わず労働市場の変動に対する賃金の反応は比較的小さいことがわかった。 (2)これまでは,関税,国際運賃を考慮せず,単に企業・家計は,関税,運賃を含まない国際価格に基づいて利潤最大化あるいは効用最大化を行うとしていたが,本年度は,われわれのモデルの商品分類に対応した関税率および輸送費を独自の手法によって推計することにより,これらの変化が域内貿易にどのような影響を与えるかを分析することが可能なモデルを構築した。具体的にはUNCTADの関税率表をわれわれの産業分類と綿密に対応させることによって,輸出産業・輸入産業別に個々の関税率を推計した。さらに輸送費に関しては,アメリカの輸出入データに基づき,それを地域間の距離の関数として表す線形統計モデルを作成し,その推計式をわれわれのモデルの域内の貿易データに適用することで商品別の輸送費率を推計した。
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