研究概要 |
平均の検定を行う場合,通常,母集団に正規分布を仮定して,t検定を用いて,仮説検定が行われる。しかしながら,母集団が正規分布に従うかどうかは,本来は未知である。小標本で,母集団が正規分布でないにもかかわらず,t検定を当てはめると,正しい検定結果が得られない。大標本では,母集団の分布が何であろうと,平均と分散が存在しさえすれば,中心極限定理によって,標本平均の分布を正規分布に近似することができる。 今年度の研究では,標本の分布を仮定せずに平均の検定を行うことを考えた。分布に依存しない検定(nonparametric test or distribution-free test)はこれまで数多く考案されてきた。今年度は,経験尤度(empirical likelihood)に基づく検定方法を紹介し,t検定との検出力を比較した。過去の研究としては,Thomas and Grunkemeier (1975)は,経験尤度比(empirical likelihood ratio)というアイディアを用いて,信頼区間を作ることを試みた。Owen (1988)は,Thomas and Grunkemeier (1975)を拡張して,一変数の場合に平均や他の統計量に関して,経験尤度を用いること提案した。さらに,Owen (1990)は,多変数に拡張して,経験尤度を用いて同時信頼区間を求めることを試みた。また,Owen (1991)は,経験尤度を用いて,線形回帰モデルでの検定問題を考えた。Qin and Lawless (1994)は,より一般的に,平均の検定も線形回帰モデルの検定もある特殊なケースであることを示した。その他にも,Hall (1990), Baggerly (1998), Lazar and Mykland (1998), Kitamura (1997, 2001), Kitamura and Stutzer (1997)等数多くの様々な研究がある(Owen (2001)を参考にせよ)。今年度の研究では,t検定,経験尤度に基づく検定,バートレット修正を行った経験尤度に基づく検定の3種類の検定方法を,モンテ・カルロ実験によって検出力やサイズについて比較検討を行った。
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