研究概要 |
状態空間モデルを用いた応用例として,マルコフ・スイッチング・モデル(Markov Switching Model)と確率的変動モデル(Stochastic Volatility Model)を考えた。研究の概要と得られた結果は,以下の通りである。 景気の転換点を推定できるモデルの1つとして,Hamilton(1989)によって提案されたMS-ARモデル(マルコフ・スイッチング自己回帰モデル,Markov-Switching Auto-Regressive Model)を用い,国全体の「平均的な景気」と地域ごとに観測される「局所的な景気」との間に乖離が見られるかどうかを調べた。データとして公表されている景気動向指数や日銀短観などの景気指標と地域ごとの「局所的な景気」との間の乖離が指摘されることがある。データとして公表されている全国の景気指標(例えば,景気動向指数,日銀短観,GDP等)から得られる景気(すなわち,全国の景気)のことを国全体の「平均的な景気」と呼び,地域ごとの景気のことを地域の「局所的な景気」として区別する。地域の景気を表す適当なデータ(特に,四半期データ)はないが,生産活動を表す代表的な指標である鉱工業生産指数(IIP)の四半期データが利用可能である。全国のIIPと地域ごとのIIPのデータを用いて,国全体の「平均的な景気」と地域ごとの「局所的な景気」との問に乖離が見られることが分かった。 もう一つの応用例として,日本の株式市場における株価の変動要因(Volatility)について調べた。過去において,株価のVolatilityに関する様々な実証分析が行われてきた。Volatilityの非対称性(asymmetry effect),休日効果(holiday effect),曜日効果(day-of-the-week effect)に関する研究がなされてきた。さらに,Volatilityのスピルオーバー効果が日英米間であるかどうか,または,レベルではどうかなどの研究も数多くなされている。その他にも,ある出来事(news impact)がVolatilityに与える影響や取引量とVolatilityとの関係等を調べる実証分析もある。得られた結論は,(i)前日株価が下落すると株価の変動は大きくなる(asymmetry effect),(ii)休日明けの株式市場では株価の変動は大きくなる(holiday effect),(iii)株式市場が開いているどの月曜日も休日明けのため株価の変動は大きいが,その反動として,火曜日には株価変動は小さくなる傾向がある(day-of-the-week effect),(iv)日本の株価は米国,英国の株価と正の相関を持っ(spill-over effect in leve1),(v)日本の株価の変動は米国,英国の株価変動と正の相関を持つ(spill-over effect in volatility),となった。この結果は,従来のGARCHモデルによる結果をサポートするものであり,(i)-(v)の事実の信憑性はより確実なものになった。
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