研究概要 |
今日の世界における最も深刻な問題のひとつは世界の人々の間に極めて大きな経済的厚生の格差が存在することである。本研究では世界的規模の観点から所得格差の実証分析を行う。より具体的には,世界各国の国民所得・人口・国内所得分布表の3種類のデータを出来る限り多く収集し,これらを全て用いて世界全体を対象とした大きな「世界的所得分布表」を毎年継続的に作成し,世界的規模での所得分布変動と,世界的所得分布に占める世界各地域の所得分布の相対的位置とその変遷に関する統計分析を行うことを目的とする。 (1)このような研究を行うためには,可能な限り多くの国を対象として,所得・人口のみならず,国内所得分布データの蓄積を行うことが必要とされる。所得分布問題への世界的な関心の高まりの中で,近年多くの所得分布データが国際機関や研究機関から公表されるようになっている。昨年度に引き続き,これら所得分布データの収集に努め,データベースの充実を図った。 (2)20世紀後半の世界的所得分布の不平等度の推移は,概ね逆U字型となるようである。1960年代以降購買力平価換算の所得データが継続的に得られる(中国を含む)世界115国を対象とした世界的所得分布の計測結果からは,1960年代から70年代半ばにかけての不平等度の悪化と1980年代以降の改善,とりわけ1990年代における不平等度の急速な低下傾向を読み取ることができる。代表的な不平等度尺度であるジニ係数値は,1962年には0.67であったが,以降徐々に上昇し,1979年には計測期間を通じて最も大きな値である0.69に達した。このような上昇傾向は1980年代以降は反転し,ジニ係数値は1989年には0.68,そして2000年には0.64へと下落している。タイルのエントロピー係数を初め他の多くの不平等度尺度によってもほぼジニ係数と同様な傾向が確認されている。 (3)より興味深いのは世界的所得分布の分布形の推移である。1960年代から80年代を通じて世界的所得分布の分布形は明瞭な二峰性分布(bimodal distribution)をなしていたが,このような二峰性が1990年代にほぼ消滅したことである。このことは,途上国群と高所得国群の二つのグループへの世界的所得分布の二極分解が1990年代に入って緩和傾向にあることを示唆しているようであり,引き続きより詳細な研究が必要である。
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