経済、経営などの社会科学を初め多くの分野で、データが非実験データで制御不可能であることが多い。ところが、データを分析するための統計学で最も基本的な分析ツールである回帰分析で、非実験データに対応した正しい分析が行われてこなかった。回帰モデルで説明変数が確率的な場合を考え、これを確率的回帰モデルと呼ぶ。確率的回帰モデルで、回帰パラメータの最小2乗推定量の漸近特性を研究した。確率的回帰モデルで説明変数と被説明変数の同時分布が楕円分布族に属す時、説明変数が固定された通常の非確率的回帰モデルの最小2乗推定量の(漸近)共分散行列は、真の漸近共分散行列ではない。すなわち、同時分布のスソが正規分布よりも厚い(薄い)時、真の漸近共分散行列は、通常の漸近共分散行列よりも非負値定負号の意味で大き(小さ)くなり、同時分布のスソが正規分布と同じ時、真の漸近共分散行列は、通常の漸近共分散行列と等しくなることを示した。また、楕円分布族の部分集合である尺度混合多次元正規分布のクラス(the class of scale mixtures of multivariate normal distributions)では、同時分布が正規分布でない時、真の漸近共分散行列は、通常の漸近共分散行列よりも非負値定負号の意味で大きくなり、同時分布が正規分布でない時、真の漸近共分散行列は、通常の漸近共分散行列と等しくなる事を示した。また、切片が含まれる時、同時分布が正規分布でなくても、確率的説明変数の期待値が既知であれば(一致推定できれば)、切片と回帰係数の最小2乗推定量の一次結合の真の漸近分散は、通常の漸近分散と等しくなる事を示した。この結果は、名古屋市立大学のDiscussion paper No.342に纏めた。また、1年前に導出した楕円分布族での歪度に代る4次の共分散による分布のスソの厚さのクラス分けに関する論文を、3回改定してJournal of statistical planning and inferenceで受理された。また、確率的回帰モデルの例として、ファイナンスのマーケットモデルで、最小2乗推定量の真の漸近共分散行列と通常の(漸近)共分散行列の有界標本での比較をおこなっている(進行中)。
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