本研究では日本国内の都市別小売物価のデータを用い、そのダイナミックスを詳細に計量分析することによって日本の小売市場が国内各地の市場を統合したひとつの国内市場としての正確を持つのか、それとも明確な貿易障壁が不在であっても地理的・物理的な距離や空問、そしてそれらが示唆する輸送コスト等によって分断された市場の集合体的性格を持つと考えられるのかを考察した。具体的には物価の総合的指数である消費者物価指数及び、個別の財やサービスの小売価格について、日本国内全都道府県を網羅する49都市をサンプルとして1975-2000年の月次時系列データの電子化作業とその分析作業を行った。電子化された都市別物価指数データから各都市間の相対価格(実質為替レート)を時系列として算出し、そのダイナミックスについて詳細に計量分析を行った結果から判明した事柄は以下に集約される:(1)サービス等を含む市場間相対消費者物価(或いは消費者物価ベースの実質為替レート)を個別に分析した場合、その大半が単位根を持つ非定常的変数であると推計され、国内においても各都市の購買力は安定的関係を持たない(相対購買力平価の不成立)と考えられる;(2)個別の財についての市場間相対物価のダイナミックスは財の性質によって大きく異なる;(3)貿易財の多くは相対小売物価が安定的に推移する傾向を持ち、個別の物価ショックは時間の経過とともに解消されて長期的には各市場の物価が共通のトレンドに収束していると考えられる;(4)各都市独自のプライスショックの影響が解消される速度には財の性質に加えて市場間の物理的距離が関係している可能性が示唆されるものの、その他の未特定要因による影響が非常に大きい。これらを総合すると国内における小売市場の統合は必ずしも全ての財、地方市場を含む形では進んでいない可能性が高いと推察される。
|