近年における貿易・金融の自由化や政府による規制の緩和、そして情報技術の飛躍的発展は経済のグローバル化・国際化を邁進させ、地域レベル或いは世界レベルでの市場の統合を押し進めているという指摘が頻繁にマスメディアに登場する。しかし、国内外の財・サービス市場が実際にどの程度統合されつつあるかの判断は現実のデータを用いた精緻な実証研究の結果に委ねられるべきものである。その際特に重要となるのは市場の統合度を測る指標としての市場間相対価格の役割である。本研究計画では国内数十都市において総理府統計局が調査を行ってきた都市別小売物価の時系列データを電子化・解析することにより、日本国内における財・サービス市場の統合進展度を検証した。 平成14年度および15年度前半では、物価の総合的指数である消費者物価指数及び、個別の財やサービスの小売価格について、日本国内全都道府県を網羅する形で都市別月次時系列データの電子化作業を行った。平成15年度後半と16年度には、電子化されたデータを詳細に計量分析した。電子化されたデータの分析結果から判明した事柄は以下に集約される:(1)サービス等を含む市場間相対消費者物価(或いは消費者物価ベースの実質為替レート)を個別に分析した場合、その大半が単位根を持つ非定常的変数であると推計され、国内においても各都市の購買力は安定的関係を持たない(相対購買力平価の不成立)と考えられる;(2)個別の財についての市場間相対物価のダイナミックスは財の性質によって大きく異なる;(3)時間の経過とともに小売市場の統合が進んでいる財も見られるが多くの財では逆に小売価格の分散度が増している;(4)各都市独自のプライスショックの影響が解消される速度には財の性質に加えて市場間の物理的距離が関係している可能性が示唆されるものの、その他の未特定要因による影響が非常に大きい。これらを総合すると国内における小売市場の統合は必ずしも全ての財、地方市場を含む形では進んでいない可能性が高いと考えられる。
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