私は中国における国有企業の経営者支配に関する研究を行っているが、平成14年度は主に二つの大企業を対象に事例研究を進めてきた。その一つは湖北省にある美爾雅紡織服装実業集団公司で経営者支配の体制が成立したケースである。いま一つは河南省にある銀鴿高新紙産股分有限公司で経営者支配の体制が成立しなかったケースである。上述二つの対照的な事例を通して経営者支配の成立と不成立の理由、またそれが経営に与えた影響について事実に基づき実証研究を行った。なおその研究成果について平成15年1月26日に京都大学で「国有企業の所有権改革の諸問題」という題で研究発表を行った。 平成15年度は14年度の実証研究の成果を踏まえて人的資本理論を応用しながら中国における国有企業の経営者支配に関する理論研究を試みた。具体的には従来の「所有と経営の分離」理論のように資金の提供者だけを企業の所有者とせず、企業は人的資本と非人的資本における特別な契約という視点から中国企業における経営者支配およびそれにともなう企業所有権の形成を分析する枠組を提示し、また中国企業におけるコーポレート・ガバナンスの構築には法人財産権の確立が先決だという考えを示した。なお、この研究成果について平成16年1月31日に愛知大学で開催されるワークショップで「非人的資本、人的資本および法人財産権」という題で研究発表を行った。 これからは経営者に株式が集中する、いわゆる人的資本の資本化過程について研究する予定です。
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