本研究の目的は、(1)ゲノム・バイオ科学などの生物科学分野における日本の研究開発水準を学術論文データベースおよび特許データベースから作成された技術連関表などを用いて客観的に評価すること、(2)その背景にある経済的要因や研究開発システムの特徴を分析すること、(3)そしてこの分析結果に基づいて日本のあるべき生物科学の研究開発システムや振興政策について提起することである。とりわけ重点は、ゲノム研究が、創薬に向けた「機能ゲノミクス」や「タンパク質の構造・機能分析」に世界的に急速にシフトする中で、この研究の日本の水準や、その問題点を析出することにある。 このような研究は2年間という短い期間でなく、より長いスパンでおこなわなければならない性質のものではあるが、しかし2年間でかなりの成果をあげることもできたことも事実である。 まず、第1年目には、各種のデータベース(特にMedline、SCISEARCH、WPI)を中心として検索し、日米欧のゲノム研究の水準の評価を行った。とりわけ、SCISEARCHを用いて論文の引用回数を比較したり、WPIを用いて特許の引例から技術のライフサイクルを析出したことは、研究にとって極めて有意義な意味があった。なぜならば、日米欧間で引用回数やライフサイクルにかなりの相違があることが分かったからである。また、このような研究は発明協会を始めとして、いくつかの先行研究があるので、これらについても丹念にフォローした。 この研究の結果として、アメリカに対して日本の研究が遅れていること、その理由は(1)基礎研究分野と(2)実用化・市場化領域という、ゲノム研究の両端における脆弱性にあることなどを解明した。 第2年目も、基本的に前年と同じ作業を、さらに詳しく焦点を定めておこなった。また、理化学研究所、かずさDNA研究所などにヒアリングをおこない、本研究から得られた認識について質問や議論をおこなって、本研究の成果が実態をかなり正しく捉えていることを確認した。 本研究の成果は、とりあえず、2冊の著作として刊行された。ただ、厳しい出版事情ゆえに、得られた成果を全て網羅的に刊行することはできず(とりわけ研究の最も中核部分であるデータの部分が刊行できず)、主に生物科学の中の脳科学の分野に限定して刊行せざるを得なかった。
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