研究概要 |
環境会計を実施しその内容を公表する企業が増加している。しかし,環境会計は企業固有の手法で行われ,企業間比較が難しいため,それぞれの企業による環境保全活動の実績を相対評価することはできない。もし環境会計ディスクロージャーが単に企業の広報活動の一環として行われているのであれば,それは由々しき問題である。そこで,企業の環境保全活動を促進するため,環境会計の基準を設定し,企業間比較を可能にするディスクロージャーの制度を構築する必要があろう。そこで私は科学研究費補助金基盤研究(c)の補助を受け,平成14年度から「環境ディスクロージャーの経済政策-制度化に向けた実証研究-」に取り組んでいる。 今年度は当該研究の最終年度にあたり,実証研究に依拠して,環境ディスクロージャーの制度化に関する問題点を検討した。第1に,公表された環境会計情報が株価にどのようなインパクトを与えたのかを分析した。多くの実証研究で環境会計情報の株価効果が観察されており,証券投資意思決定に環境会計情報が活用されていることがわかった。第2に環境会計情報を開示する企業側の動機を検討した。その結果,企業の環境会計情報がグッド・ニュースであり,頻繁に資本市場を活用する企業ほど,環境会計情報を多く開示するということが明らかになった。 環境会計情報が証券投資に活用されている一方で,企業はその開示をかなり裁量的に実施している。この期待ギャップを埋めるには,環境ディスクロージャーの制度を整備する必要があろう。少なくとも,環境関連の費用と資産の会計基準,および環境負債の認識・測定・表示の会計基準を設定すべきだと考えられる。とりわけ,土壌汚染対策法に係る会計基準の設定は急務である。
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