研究概要 |
環境保全の経済政策を適切に実施するには,各企業における環境保全活動の成果を正しく把握する必要がある。したがって,環境保全の経済政策において,環境会計ディスクロージャーのあり方は重要な位置を占めるといえよう。本研究では第1に,環境会計ディスクロージャーの国際比較と業種別比較を行った。その結果,カナダ企業の開示レベルが高く,日本企業の開示レベルは低いことが明らかとなり,業種別では化学会社と石油会社の開示レベルが高く,自動車メーカーの開示レベルが低いという事が分かった。第2に,開示レベルを決定する要因を分析した。その結果,(1)行政を含む開示規制の影響,(2)環境負債に関する情報の不確実性,(3)浄化費用負担額の交渉と訴訟,(4)資金調達計画などで開示レベルが左右されることが判明した。 このような基礎的な考察を踏まえ,本研究ではさらに,環境会計ディスクロージャーの証券投資意思決定に対する有用性を分析した。米国の実証研究によれば,環境会計情報が投資意思決定に活用され,その不確実性を含めて株価に大きな影響を与えている。ここに,環境会計の意思決定支援機能が観察される。そして環境会計の意思決定支援機能を与件として,経営者は環境会計を戦略的に実施することが分かった。たとえば,土地浄化引当金の戦略的過小評価が行われた。 このように米国では,制度会計としての環境会計が意思決定支援機能を適切に果たし,他の財務会計情報と相俟って,機能改善の乗数効果を発揮している。この事実は,日本の環境会計ディスクロージャーのあり方について重要なことを示唆する。すなわち,わが国の財務会計について意思決定支援機能の改善を求めるのならば,制度会計としての環境会計の構築が不可欠だということである。わが国では環境報告書などを用いた非制度会計としての環境会計が中心であり、その比較可能性と信頼性は必ずしも保証されていない。少なくとも,環境資産と環境費用および環境負債の会計基準を設定し,制度としての環境会計ディスクロージャーを整備する必要がある。土壌汚染対策法の制定や二酸化炭素排出権取引に対して,ディスクロージャーの側面から対応しなければならない。
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