設定した研究目的に向けて、まず最初に取り組み、そして発表した論文が「ドイツの建設労働市場と外国人労働者」である。 建設業は非貿易財生産部門ゆえにことさらドイツ的個性を代表していた。社会基金の労使による共同の運営がそれである。建設労働市場の流動性を確保しつつその不安定性を除去する社会的な仕組みである。従来の建設労働市場は、こうした社会的な仕組みのもとで、自前の専門工に立脚した構造をもっていた。この構造に照応した労働力政策を内部化戦略と規定した。60年代から70年代初頭にかけて導入された外国人労働者は、あくまで直接雇用であり、内部化戦略を補完するものであったことが強調される。 90年代以降においてサービス貿易の一形態として導入されている外国人労働者は、間接雇用である。それは外注比率の上昇となって現れている。国内労働者との関係は、補完関係から代替関係へと旋回した。労働許可手続きにおける「内国人優先原則」の適用除外および労働条件における「出身国主義」の原則とがその旋回を促した。非貿易財生産部門は労働市場の側面から国際競争の渦中に引き込まれている。労働力輸入におけるパラダイムシフトが進行しているのである。 これまでの内部化戦略はその適用範囲を縮小しつつある。派遣労働者に対応する新たな低賃金グループが創設され、そして国内労働者の駆逐が起こっている。縮小する基幹的な労働力の周縁にはまず正規の派遣労働者が、そしてさらに非正規の請負労働者と雑多な不法就労者が拡がっている。ドイツの建設労働市場は、最低賃金の設定や社会基金の適用にみられるように、建設業労使による共同の規制力をなお保持しつつも、その階層化の裾野を拡大・深化させつつあるのである。
|