本報告書はドイツにおける労働力輸入の1990年代以降の新展開を論理的かつ実証的に分析している。 まず第1章「ドイツにおける労働力輸入の新展開」では全体の構図を提示している。新しい型の労働力輸入をそれ以前のいわば戦後型ともいうべき様式と対比するなかで断絶性と連続性との二側面があることを析出した。つづいて第2章の「ドイツにおける生産協同体の動揺」ではいわゆるドイツ・モデルの変容の過程を描出している。とりわけ東西ドイツの統一およびEU統合がドイツの労使関係に及ぼした深遠な影響を実証的に分析している。第1章から第2章は本報告書の中でいわば総論的な位置を占めている。労働力輸入の新展開をもたらした時代背景を把握しようとしている。これをうけて第3章以降は労働力輸入の新展開の具体的な実態を代表的な2つの産業について分析している。第3章「ドイツにおける建設労働市場と外国人労働者」は建設業を対象としている。労働許可手続きにおける「内国人優先原則」の適用除外および労働条件の「出身国主義」とが雇用形態を直接雇用から間接雇用へと、国内労働者との関係を補完関係から代替関係へと旋回させていることを論じている。第4章「ドイツにおけるIT労働市場と外国人技術者」ではドイツ版グリーンカードの導入をドイツ的伝統からの飛躍、永住移民的色彩の摂取という移民政策の一大転換として特徴づけ、その転換を規定した動力をIT労働市場の激変過程に探っている。「脱境界」と「脱職業化」がそのさいのキーワードである。そして最後に補論「日本における外国人IT技術者」では日本における外国人IT技術者の導入を調査企業の事例を紹介しながら分析している。日本語の仕様書を読み込む能力を前提とした、一般職から部長級までの幅広い階層を柔軟に受け入れる日本に対して、ドイツでは上層レベルに限定した導入が意図されている点が大きな相違である。
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