研究概要 |
本年度の研究では、アジア新興工業国のこれまでの経済成長の要因として投資の役割に注目し、それと関連して生産性分析を行なった。まず、アジア新興工業国の経済成長と生産性を考える上で、クルッグマン論文(1994,"Theb myth of Asia's miracle", Foreign Affairs)を参照し、これまでのアジア新興工業国の急速な経済成長は生産性向上によるものではないとのクルッグマンの主張に対して、トランスログ型生産関数による韓国・タイ・フィリピンの通貨危機前後の生産性(TFP)推定を行なった結果、通貨危機以前はTFP推定値が上昇トレンドを示していたものの通貨危機直後に急速な低下がみられることが示された。しかし、生産性分析にみるアジア通貨危機のマイナスの影響は短期間であり、1999年からは経済および生産性の回復基調が示されている。また共和分分析・誤差修正モデルによる計量分析では、これまでのアジア新興工業国の経済成長には資本および投資が重要であったことが示されており、通貨危機後の経済回復には投資が引き続き重要な役割を果たすと考えられるが、Barro(2001)の指摘するとおり、投資は通貨危機以前の水準まで回復しておらず、低水準の投資を如何に引き上げていくのかが今後の重要な課題であるとの分析結果がえられた。 また、本年度の研究では、アジア新興工業国の経済発展と所得分配、環境問題をも分析し、いわゆるクズネッツ曲線を検証した結果、クズネッツ仮説の支持は限定的であり、更なる経済成長に向けて平等な所得分配や環境保全問題への対応も重要な政策課題であることが示された。
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