本年度の研究では、特に東アジアの経済発展過程における産業構造変化、所得分配、生産性、また持続可能な経済発展を展望するために環境問題などについて考察・分析を行なった。 まず、産業構造変化については先行研究で示されているとおり、東アジアにおいても1人あたり所得の増大とともに農業部門比率の低下または工業部門比率の増大という定型化された事実が、記述的なデータ概観のみならずパネルデータ分析でも計量的に示された。 次に東アジアの所得分配について、アジア太平洋諸国データを用いてパネルデータ分析を行うと、近年の主な先行研究と同様に、Kuznetsの逆U字仮説は支持されないという結果が得られている。なお、経済的な平等性のみならず、政治的自由等の一般的な平等性もどのように進展してきたかを検証してみると、日本・韓国・タイなどは他地域の途上国と同様に、1人あたりGDPにみる所得レベルと民主主義レベルとの間に強い相関が示されているものの、シンガポール・マレーシア・中国については急速な経済発展にも関わらず、相対的に民主主義レベルは低いままであることが示された。 また、生産性分析の結果として、趨勢的な生産性向上を検証するために比較的長期間にわたるデータが利用可能であった韓国とタイにおいて、クルッグマンの主張とは異なってTFP推定値の上昇トレンドが示されており、これまでに趨勢的な生産性向上が推定されるものであった。 なお、環境問題について検証・分析をした結果、今後も東アジアの経済成長に伴って引き続きエネルギー消費量の増大が予測されるとすれば、それに関連して大気汚染などの環境汚染問題、また資源の消費量増大にともなう天然資源の枯渇問題など、東アジアの持続可能な経済成長へ向けての対応策がますます重要になることが含意として示されることになった。
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