本研究は、経済のグローバル化の下で日本企業がグローバルな生産・分業体制の再編をどのように進めているか、またその下でいかなる雇用管理が行われ、それがマクロレベルの労働市場にどのような影響を及ぼしているのか、実証的に考察することを課題としている。今年度は、電機企業などの聞き取り調査を行い、家電産業のグローバル生産体制及び東南アジアでの生産実態について分析した。 これらの調査を通じて、第一に、家電製品のアジアへの生産移管は進み、海外生産比率は高まっているが、海外生産の多くは現地市場にむけたもので市場立地型といえる。したがって、日本国内むけ製品は国内生産を維持しているところが少なくないことがわかった。第二に、日本国内むけに国内生産を維持している背景には、技術の問題や雇用維持の方針、輸送費コストの問題などがあるが、同時に消費者の嗜好性が地域によって異なることもある。また、製品の変化が激しく短納期が求められることもあり、日本市場むけ製品を国内で生産することは一定のメリットがある。 第三に、東南アジアでの生産は、一部に日本市場むけもあるが、東南アジアおよび周辺地域の市場むけが中心で、それらの地域ニーズに対応した製品を生産していることが明らかになった。現地のオペーレーションは大体順調といえる。とくにタイの場合は、日系企業の集積が進んでおり、労働力、技術、部品調達等多くの点で現地生産に問題がないといえよう。第四に、日系企業のなかには中国での生産を拡大しているところが増えているが、それは中国市場向けのものが中心であり、低コスト生産をめざした生産の移管ということになっていない。東南アジアでの生産を維持しつつ、中国市場の伸びにあわせて中国に生産拠点を設けるというのが多くの企業の戦略である。現地での日系企業の集積や部品調達などを考えた場合、東南アジアでの生産を中国に移管するメリットは小さいといえる。
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