本年度は、昨年までに行った東南アジアでの日本企業の生産・事業活動の調査や日本の多国籍企業の国際戦略についてまとめるとともに、グローバル化の地域産業や地域労働市場へ及ぼす影響について福島県と長野県で調査を行った。 これらの調査を通じて、生産の海外移転は、企業により、また生産品によって実態や戦略上の位置づけが異なっているが、全体としては、量産工程は海外展開が進んでいる一方、研究開発や設計、試作などは日本国内に維持されていること、また、新モデルや技術的な変化の早い製品などは国内で生産されているものが少なくないことが明らかになった。 こうしたなかで、生産の海外シフトの地域経済や中小企業などへの影響も多様である。地域産業への影響という点では、福島県のように、従来から組立て型の量産工程を中心にした産業構造の場合には、量産機能の多くがアジアなどに移転したため、生産の縮小が顕著で、中小企業へ大きな影響をもたらしつつ地域産業の「空洞化」とその下での雇用の縮小が進んでいる。他方、独自の産業的な展開をしてきた長野県などをみると、取引先は海外シフトしても、生産品を見直し、取引を多様化することなどによって対応しており、生産はかなり維持されている。ただ、地域の中小企業では、受注ロットの縮小、単価の低下などが生じており、生産変動やコストダウンへの対応が迫られている。こうしたなかでリストラも行われているが、雇用機会は確保されており、雇用への影響は小さい。しかし、雇用の中身をみると、コストダウンの下で正社員は大幅に減少し、正社員の非正社員への置き換えが進んでいる。求人の面でもパート、派遣、業務請負などが増大しており、とくに製造業の求人については、業務請負業の求人が大きな割合を占めてきている。この結果、雇用機会が量的に確保されても、雇用の中身には問題があるということができる。
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