本年度も、引き続いて東南アジアにおける日系企業の海外生産について聞き取り調査に取り組むとともに、地域産業政策について事例研究を行なった。 本年度はマレーシアで調査を行ない、日系企業がアジアでの生産再編に取り組んでいることが明らかになった。マレーシアでは、日系企業の撤退もはじまっており、立地件数も減少傾向にある。その要因の一つは、マレーシアでの賃金上昇と不安定な労使関係である。とくに、マレーシアには電機関連の部品生産が集積し、アジア各地の生産を支えていたが、部品生産は国際競争がとりわけ厳しく、たえずコスト削減が求められている。そのため、マレーシアよりも低賃金の地域へ生産拠点の移転が進んでいる。第二に、日本の電機メーカーは最適地生産の確立をめざし、生産拠点の集約化の方向で生産体制を見直している。その際、東南アジアレベルで生産の集約化を進めており、それがマレーシアでの生産縮小に結びついている。マレーシアも経済発展の下で、サービス産業をはじめ、より付加価値の高い産業構造への転換を進めている。日本企業のなかには、研究開発を現地化する動きもある程度みられるが、それが従来の日本国内での研究開発体制を変えるものとはいえないであろう。 このように日本企業の海外生産の再編が進んでいるが、これまでの調査研究でみてきたように、その国内産業への影響は限られている。日本国内に一定の生産機能が残されており、とくに研究開発や設計、試作等は主として国内で担われている。海外生産の地域経済への影響も多様であり、量産機能を担っていた地域では「空洞化」が進んだが、他方、多様な中小企業が立地し複合的な産業構造をもつ地域への影響は限られている。たとえば、多様な基盤技術をもつ中小企業が集積している北上市では、技術の高度化や複合的な産業構造をめざす地域産業支援策の下で、生産活動は維持されているということができる。
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