本年度は「スペインにおける外国人労働者の多元化要因の分析」に専念した。そこから明らかになったことは以下のことである。 スペインの園芸施設生産にとって生産コスト抑制圧力は一層働いている。従来のモロッコなどの発展途上国との価格競争に加えて、環境要因が加わった。農業の環境払い制度が開始されたからである。スペインの場合には、水供給とハウス建築資材のビニール処理に費用がかかる。さらに、従来の農業労働力の主流となっていたモロッコ人労働者などはその法的地位が次第に確立されていくことによって、皮肉にも園芸経営者にとっては労働コストが増加していく。これが外国入労働者の多元化要因の発生源である。 労働コストを低減させることが本来の目的で、1998年からスペインは非EU労働者を割当制で受け入れはじめた。当初2.8万人の予定が結局約6.5万入の申請数に達し、審査の結果約2.7万人の受け入れ数と決まった。産業部門別では家事労働が約3万人と最も多く、次いで農牧業が約2万人の外国人労働者の求人(労働力需要)規模となった。 これらの労働力需要を満たすために、政府は、ルーマニア、ポーランド、ブルガリアという東欧諸国、モロッコというアフリカ地域、コロンビア、エクアドル、ドミニカ共和国の中南米諸国などの7カ国とのあいだで労働力の供給に関する協定が結ばれた。いずれの国もスペインとは大きな賃金格差がある。この結果、外国人労働者の多元化がはじまったのである。雇用形態は長期と短期とに大きく分かれ、2004年の短期雇用では農牧業部門が約2万人のうち1.7万人を占めている。同じく長期雇用では建築、ホテル、運輸の各部門が上位を占めている。 このように、かつてスペインは、1960年代においてフランスやドイツなど労働力供給協約を締結した歴史がある。スペインが受け入れ国に完全に転じると同時に外国人労働者の多元化の時代を迎え、その要因が明らかとなった。社会的統合が課題となるなか、外国人の不法入国を取り締まる役割を担っている治安警察が相談部門を設けるなどの新現象が注目される。
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