急成長を実現した東アジア諸国は、戦後日本の高度成長をひとつの手本としたものの、その制度設計は固有の条件を前提としてさまざまバリエーションを持っているが、市場指向型の制度改革を遂げつつある点では同様である。特に、近年の急速なグローバリゼーションは東アジア各国間および諸都市間の競争を激化させ、それにともなう人口の規模および構成の劇的変化、急激な社会変動にもさらされている。本年度の研究は、以上のように急激な変化に見舞われている東アジア工業諸国における経済制度の特徴と制度改革の様態について現地調査および文献調査を行った。 中華人民共和国・香港特別行政区および隣接するシンセン経済特区への現地調査では、隣接する都市経済間でのグローバリゼーションと制度改革の動態を調査した。すなわち、中国最大規模でもっとも歴史の古い経済特区が経済規模を拡大し自立した経済機能を保有し、諸外国との直接的な取引をもつにつれて、かつて大陸における加工製造業の製品および原料の輸出入基地としての役割を果たしていた香港経済が空洞化している。また、東南アジア随一の金融センターとしての香港の地位も、中国の経済成長が北東沿岸部を中心に進むにつれて、相対的に低下してきている。これらの変化は、安価で無尽蔵とも思われる大陸の労働力が、経済特区という制度改革によって香港経済を迂回することなく、諸外国の先進的生産システムおよび資金と直接結びつくことによって生じている。 わが国における制度改革については、加藤寛氏への長時間のインタビューによって、その要因と審議会を通じた制度改革の手法の特徴と限界をまとめた。
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