ロシアでは90年代の労働問題では賃金遅配が一番の問題であった。しかし1998年の経済恐慌により、ロシア経済は一気に健全化し、自立的に急速な成長を開始した。日本ではこの期間に非正規雇用が増大していたので、筆者はロシアでも従来の伝統的な雇用形態に代わって、非正規雇用が拡大すると予想した。 しかし、兼職者雇用(他に正規雇用されているものがパートタイムで兼職する雇用形態)は1994年以降一貫して減少し、教育医療など労働負荷の弱いところに限られ、社会問題としての規模を失った。これは本業での労働密度が増加し、ダブルで働くことができなくなったためである。労働統計では不完全就業(規定労働日に達しない割合)の項目が指標となるが、労働資源の稼働率が最近特に上がっているので、この現象はすでに過去のものといえる。 請負制度は民法的契約による労働とよばれ、一貫して増大傾向にあるが、まだ規模が小さい。金融10%、建設3%、商業4%、不動産取引4%といった具合である。 2002年以降石油の高騰をばねにさらに成長を続けるロシア経済で雇用の伸びが顕著なのは個人のサービス業である。これは非公式セクターの代表であり、民法的契約による労働という統計データと両睨みで取り扱うべきである。 ロシアでは労働者派遣業の成長は全く見られず、市場原理が貫徹すれば労働社派遣業の必要が弱まることがロシアの経験でわかった。
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