本年度は、1)在宅介護支援センターの実証研究と、2)福祉サービス「準市場論」の理論的検討を行った。1)について。介護保険制度の開始と同時に、介護基盤整備の重点対策として「介護予防・生活支援事業」が創設された。その目的は、要介護認定で制度の対象外となる高齢者に対して、介護保険法とは別に市町村が地域の実状に応じて保健福祉サービスを提供することにより、介護保険事業では対応できないニーズ=「介護保険の隙間」を埋めることであった。その事業の実施事体として位置づけられた機関が、在宅介護支援センターである。その業務として(1)ケアプランを作成する居宅介護支援事業を行いつつ、(2)市町村が行う要介護認定のための訪問調査の委託も受け、(3)総合相談や高齢者実態把握など介護保険外のサービスを行うことが求められた。 本研究では、厚生労働省や全国在宅介護支援センター協議会の資料にもとづき在宅介護支援センターの全国レベルでの現状を整理し、それを踏まえたうえで京都府A市の在宅介護支援センターの活動について数回にわたって現地での聴き取り調査を行い、在宅介護支援センターの現状と課題を明らかにした。その要旨は、ケアマネージャーを兼務した在宅介護支援センター職員の奮闘が、支援センターの「福祉事務所化」をもたらしていること、厚生労働省が期待した「保健と福祉の連携」が、単に支援センター職員を保健職と福祉職の組み合わせで配置するだけでは十分に機能しないことなどである。 2)について介護保険を制度設計するに際して、モデルの1つとなったイギリスの「コミュニティ改革」や「NHS改革」に関する実証研究の理論的枠組みである「準市場論」を理論的に整理し、わが国で進みつつある介護サービス分野における「準市場化」を分析するための批判的視点の提起を行った。
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