本年度は、介護サービス部門における「疑似市場」の実証研究を、介護保険の実施主体である市町村レベルで進めることを課題とした。具体的には滋賀県草津市の介護保険事業、老人保健事業、介護予防・地域支え合い事業の進行状況を追跡した。草津市長寿福祉介護課(基幹型在宅介護支援センターを兼ねる)主催の地域ケア会議、在宅介護支援センター会議、高齢者保健福祉サービス調整会議、ケアマネジメント指導者研修会、ケアマネージャー連絡調整会議に参加し、介護保険の運営主体である草津市と介護保険事業者との連絡調整の具体的な動きを把握した。 この過程で得られた知見を踏まえて、介護保険施行後5年目の見直しに向けて提起された社会保障審議会介護保険部会の「介護保険制度の見直しに関する意見」について検討した。この内容は、2004年10月16日に開催された社会政策学会で報告し、その後「介護保険制度の見直しと自治体福祉政策の課題」と題して『賃金と社会保障』(旬報社)1381号、2004年11月上旬に掲載した。 「疑似市場」的視点から、今後市町村が取り組むべき高齢者保健福祉サービスのあり方として、第1に高齢者福祉と高齢者保健の組織と財政の一本化、担当者の課題の共有と専門職種としての力量発揮が可能な体制の構築、第2に民間事業者が提供するサービスが適切なものか判断ができる能力を行政担当者が維持するために、モニタリングの仕組み、苦情相談窓口の有効活用、第3に地域包括支援センターの民間委託がなされる場合の行政・事業者間の信頼関係の構築、を提言した。 以上の課題とは相対的に区別される研究として、若年障害者への支援費支給制度の導入に伴う「疑似市場」の拡大という状況に対応して、広島市における市民レベルでの障害者プラン作成過程を追跡した。この研究は現在進行中である。
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