介護サービス部門における「疑似市場」の実証研究を、介護保険の実施主体である市町村レベルでの取り組みを対象として行った。具体的には、広島市福祉サービス公社および京都福祉サービス協会によるホームヘルプ派遣事業、京都府向日市および滋賀県草津市における在宅介護支援センターのサービス調整機能、京都府丹後6町の在宅および施設サービスについて研究した。以上の研究から得られた新たな知見は、以下の点である。 1.2000年の介護保険の施行以降、基礎的自治体である市町村が従来から行ってきた在宅部門における高齢者への介護サービス供給は、全国的に縮小・廃止の傾向にある。また市町村からの委託を受けほぼ独占的に在宅介護サービスを提供してきた、自治体出資のサービス公社や社会福祉協議会などの公的セクターの経営困難が見られる。しかし個別的には、京都福祉サービス協会のように経営改善により介護市場への適応に努めた経営体は事業を拡大している。 2.介護保険は、わが国に新たに介護サービスの「疑似市場」を作り出した。その結果、介護保険が給付するサービスは、サービス提供事業者とサービス需要者との契約関係により処理されることになったが、他方で従来からの市町村が担う保健・福祉サービスとの調整が、とくに介護保険の非利用者について必要となった。この調整は、市町村と民間サービス事業者との情報交換・業務分担・相互理解を通じて進められるべきであるが、この課題はいまだ試行錯誤の過程にある。 今後わが国における介護サービス部門の「疑似市場」は、さらに拡大すると考えられるが、その動向を自治体福祉政策との関連で研究する予定である。
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