本研究は、人口センサスの集計資料、アンケート調査の個票データおよび現地調査のインタビュー記録を利用して、現代中国における人口・労働力の地域間移動の実態とメカニズム、労働市場の基本構造を実証的に分析するものである。報告書は二つの部分からなっている。 前半の3章は人口センサス等の集計データを用いた、人口・労働移動のマクロ分析である。第1章では、数回の人口センサス、1%人口抽出調査の集計資料を基に、人口・労働移動の規模、方向、経済発展との関係をダイナミックに分析した。第2章では省間人口移動の実態および決定要因について定量的または計量的な分析がなされた。移動人口の動向、移動率とその他諸要因の相関関係、純流出地、純流入地の規定要因を明らかにした。また、地域間人口移動に関する経済学の考え方を援用して省間人口移動率の決定要因を計量モデルで分析した。第3章では、年齢階層別移動率に関する計量人口学の考え方を検討したうえで、2000年人口センサスの集計資料を基に、中国全体ならびに主要な人口流入地域における人口移動スケジュールの実態、特徴を明らかにした。一連の記述統計分析の後、人口移動スケジュールの理論モデルを推計し、観測値と理論値の異同から中国の人口移動スケジュールが形成される原因について検討した。 後半は上海市における出稼ぎ労働者の就業、賃金、生活などに関する実態調査の記録である。上海社会科学院の協力を得て、上海市で働く外来人口1500人、上海市民1505人の有職者を対象にアンケート調査を行った。これと並行して、出稼ぎ労働者、企業、行政機関などに対する訪問調査も実施した。この報告書ではアンケート調査の単純集計や現地調査の一部がまとめられている。
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