本研究は、総体としての雇用吸収力の大きさにもかかわらず、これまで研究の進んでいない、都市「小経営」の実態と、その展開論理を検討することを課題としている。本年度では、研究計画に基づき以下の二つの課題を遂行した。 一つは東京市が刊行した、市勢調査データの入力と分析である。1908・20・24年の3時点については入力を終え、小経営のライフサイクル上の位置(コーホート分析による)、世帯形成と小経営の関連(有配配偶率の年齢別・従業上の地位別比較による)などが明らかとなった。その成果は既に論文として刊行されている。 もう一つは、事例研究として取上げる東京の玩具工業史に関する史料収集である。基礎的史料となる業界史や東京市による様々な調査報告書の収集に加えて、行政文書に含まれる玩具関係史料の発掘(東京都公文書館)、業界団体所蔵史料の閲覧および写真撮影などを行った。『東京玩具商報』(1925年〜1941年)のマイクロフィルム化はその一端である。『商報』には多くの製造問屋・製造業者の商品広告が掲載されており、その内容の分析によって、事業者間の取引関係を解明する手掛かりが得られつつある。また、各種の事業者名簿の収集およびそのデータベース化も進めている。事業者の地理的分布、事業継続期間、業種間移動などの検討を通じて、小規模製造家の営業実態の解明が期待される。
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