研究課題
本年度は、都市小工業のケース・スタディとして、戦間期東京で発展した玩具工業の展開過程を分析した。その発展の軌跡は、欧米玩具工業に対抗しうる競争力の獲得を意味していたが、それを担ったのが、以下に見る小規模製造業者を基盤とする分散型の生産組織であった。生産組織を構成する一方の基軸は、純粋な卸商とは区別される「玩具問屋」である。一方製造業者には、『工場通覧』記載の職工5人以上「工場」とともに、それを大きく上回る数の非「工場」が含まれる。後者の労働力構成の核は業主と「職工」であるが、「徒弟」およびその家族も重要な位置にある。小規模業者とはいえ、その業務には数年の練習期間が必要とされており、不熟練作業を担う内職とは明確に区別される存在であった。問屋、「工場」、小規模業者いずれも、商品企画力を有する経営を含んでいたことも重要である。有力問屋は自らの商品企画をもとに、コントロール下にある製造業者組織を用いて、問屋商標を付けた製品を販売する。その一方で、製造業者も自ら企画・設計・製造を行い、問屋に対して交渉力を強めるケースも現れる。問屋と製造業者、あるいは製造業者における発注者と受託者は、補完と分業の関係であるとともに、同質的な競争関係をも内包していたのである。それがこの分散型生産組織に、ダイナミズムを産み出す要因となった。業者の地理的集積は、経営存続への正の効果をもつ点で、このダイナミズムを支える機能を有していた。しかし逆に、模造品に見られるような取引秩序の紊乱は、社会関係の相対的に稀薄な都市部において、より悪化する可能性を持つ。特許局の知的財産権保護制度、法的強制力を背景とした工業組合による製品検査とそれに担保された意匠登録の実施は、取引秩序の維持・改善に一定の効果をもった。この産業展開の基盤のうえに、新規開業者の創生があり、都市小工業は再生産されていくのである。
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すべて 雑誌論文 (5件)
日本史講座・第7巻近世の解体(東京大学出版会)
ページ: 233-264
東アジア近代経済の形成と発展(中村哲編)(日本評論社)
ページ: 201-224
生産組織の経済史(岡崎哲二編)(東京大学出版会) (刊行予定)
中小商工業研究 81号
ページ: 95-107
Economic History of Modern Japan(Hayami, Akira, Osamu Saito and Ronald Toby eds.)Oxford U.P. Vol.1
ページ: 268-300