2002年7月より8月にかけてイギリスのパブリック・レコード・オフォスで資料調査を行った。主に見た史料は、(1)1920年代と30年代の帝国会議に関連した内閣文書、大蔵省文書、自治領省文書、(2)カナダ、オーストラリアの農業に関連した自治領省文書、(3)農水省文書中の対外経済関係文書である。 これまで自由貿易体制の形成史は1941年の大西洋憲章以降の英米協議から始まるものと考えていたが、今回の一連の調査で、第二次大戦開戦直前の1937年、38年ごろがイギリス本国と帝国諸国、イギリスと合衆国の関係で転換点になることが分かった。この時期に、イギリスと帝国諸国の経済的関係は緊張を高め、いわゆるオタワ体制の見直しが起こり、イギリスも自由貿易に傾斜していく。帝国諸国も合衆国との通商協定を結ぶなど帝国外に目を向けていく。 この調査の結果は、佐々木雄太編『世界大戦の時代とイギリス帝国(仮題)』、ミネルヴァ書房、2003年刊行予定に、森建資「イギリス帝国の農業問題」として発表した。 2003年の夏は、37年、38年の時期について、自治領省文書をさらに読むとともに、商務省文書、外務省文書を探索したいと考えている。また第二次大戦の時期の英米交渉をもう一度内閣文書のレベルで点検したいと思っている。こうした作業によって、第二次大戦を間にはさむ時期に自由貿易体制がどのように出来上がっていったのか、そしてそれはイギリス農業や帝国農業とどのように関連していたかが明らかになると思う。
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