(1)漆(器)を模倣した「ヨーロッパのラッカー(製品)」(ジャパン)に関して、17世紀から19世紀初頭までに英仏で刊行された技法書やパンフレットを収集し、ヨーロッパで用いられた材料の推移、技法の変遷を見た。その結果、各技法書は、漆の模倣と展開をいずれも明言していることが判明した。またラック樹脂に始まり、(漆以外の)多様な樹脂やメディウムがヨーロッパで使われるようになったが、ヨーロッパの技法は、(1)漆に似せた深みのある光沢をどのように出すか、(2)漆のような熱や酸に対する強さをどのように出すか、(3)漆では出せない各種の地色をどのように出すか、といった原理で進んでいったことが判明した。 (2)秘伝的技法が多いと考えられるこの工芸分野で、なぜ技法書の公刊と普及が進んだかに着目し、技術史の観点から解明した。その結果、18世紀における科学、とくに化学知識の応用や普及が、工芸分野においてさえ重要な役割を果たしたことが判明した。このことをヨーロッパの特徴として一般化するために、捺染、磁器など同類の模倣産品に関しても、科学・技術の役割を調査した。そして工芸技法の進展や普及と、近代科学的知識との関連を検討した。 (3)ジャパンの主要な産地であるバーミンガムとウルヴァハンプトン(いずれもイギリス)およびスパ(ベルギー)に関して、公文書館所蔵の史料調査と文献収集を行い、産業の実態解明を始めた。すなわち職人の技能養成、産業集積、企業の勃興、新製法の導入等を調査した。またオランダに関して、東洋からの輸出漆器や模倣品について、その量や形状を調査した。
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