本年度中に行なった研究と、その主要結果は、以下のとおりである。 1)ウルバーハンプトン、ビルストン、バーミンガムなど西部ミッドランズ内の諸都市に集まった18世紀イギリスのジャパナーについて、これらの町々の商工業ディレクトリを年次別にたどり、人びとがどのような経過からこの産業に入っていったかをあとづけた。その結果、これらの町々においてジャパナーが増加するのは19世紀に入ってからのことであり、しかもブリキやその他金属加工を兼営する者も少なくないことが判明した。 この地域における技能養成やマーケティング等については、まとまった史料が乏しく、なお解明に工夫を要する。 2)17世紀末からロンドンのクラークンウェル地域に集まったとされるジャパナーについて、その技法がどのようにロンドンに伝わったのか、どのくらいのジャパナーがおり、その経済的地位はどのようなものであったか、等について調査を行なった。17世紀のこの地域のディレクトリ、および18世紀のロンドン・ディレクトリにはいずれも登場せず、その実態はまだ解明できていない。これらのジャパナーは、後の西部ミッドランズのジャパナーがブリキや紙の上に施したのに対して、家具に施すことが多く、木工業との兼営や家具製造業者のもとで仕事をしていたと考えられる。対策として、(1)社会的により下層の人びとをも収録しているマリッジ・レジスターによって、より初歩的な史実からやり直すこと、(2)家具製造業関係の史料をあたること、を考えている。 3)技法の発展については、特許資料、ロイヤル・ソサイエティ・オブ・アーツによる技術支援、同時代の実験結果、同時代のマニュアル等により、おおよそたどることができた。
|