昨年度に引き続き今年度も、第二次大戦中の「ポンド残高」累積期から1972年の変動相場制への移行・74年の第二次バーゼル協定の廃止までを対象として、ポンドが基軸通貨性を喪失してゆく過程の実証的解明に取り組んだ。 今年度は特に、(1)第二次大戦中の「ポンド残高」の膨張、(2)ブレトン・ウッズ会議への対応、(3)47年ポンド交換性回復の挫折、(4)49年ポンド切下げの4点を中心に、イギリス大蔵省の内部資料を調査し、それぞれの問題に関する当局の状況認識と政策構想あるいは対応の解明を試みた。そして、まず、当局が、戦争中および戦後において国際収支が極めて苦しい状況に陥ることを十分認識していたことを確認した。また、戦後の国際通貨体制に関するイギリスの提案には上記のような認識が反映していること、しかしアメリカの要求との妥協のなかで「ホワイト案」が必ずしもイギリスにとって不利ではないことを議会等に理解させる必要が生じ、その対策に苦労していること、も確認できた。さらに、ポンド交換性回復に失敗したのち、かなり早い段階からポンド切下げの準備が始められているという事実も発掘することができた。 これらの成果に基づいて、政策当局の認識・構想と実際に進行した事態との間の相即あるいは齟齬を確定してゆき、両者の間の屈折した関連を解明することが次年度の課題となる。
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