本年度前半は、戦間期から第2次世界大戦期における政策形成過程におけるジェンダーの認識、および女性の政策決定過程における関与のあり方に研究を集中させた。その結果、1930年代には国会活動あるいは高級官僚として政策へ影響を及ぼしうる立場にある女性の数は少ないながらも一定数いたものの、政治家の場合は所属政党、官僚の場合はメリットクラシーへの信奉がジェンダー・ブラインドなイデオロギーへの固執を招き、政策に特にジェンダーの視点を生かそうという動きは希薄だったことをしめした。さらに政治家の場合、1930年代から45年まで積極的に両性の平等の推進にかかわった保守党女性議員のほぼ全員が、1945年総選挙で落選し、ジェンダーより階級を重視する労働党女性議員にかわったことが、戦後の女性政策の停滞をまねいたという仮説をうることができた。これらについては、国際学会での報告および発表論文に成果をしめした。 本年度の第2次世界大戦終了前後から福祉国家建設期における英国への外国(ヨーロッパにおける難民等)とアイルランドおよび植民地からの女性労働者の導入政策に関する文献収集、およびイギリスでの資料収集に専念した。資料収集の結果一方における第2次世界大戦末期からの女性労働力不足、特に伝統的な(低質金)女性労働分野(家事労働・繊維工業)における深刻な女性動力の不足、他方における出生率低下、人口減少への懸念は、1945年以降、外国人労働力の組織的導入政策となった。しかし、同時に政府の望まない労働力移動が発生し、低賃金労働への植民地出身者の導入の端緒がこの時期に開かれた、と考えられる。この成果については現在論文を執筆中である。
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