本年度は、昨年度末に行ったイギリスでの資料収集の結果、得られた資料を利用しての分析を中心に行った。その際注目したのは、第2次世界大戦後戦後深刻な労働力不足におちいった病院などにおける家事スタッフである。この仕事は女性の未熟練労働とみなされ、他の職を得ることが困難な中年以降の女性の仕事として認識されてきた。戦争中の女性動員のために、これまでの供給源から女性労働力をうることは困難となり、戦前には供給源としての役割を果たしたアイルランドからの女性移民も他の職に就くようになった。終戦後、労働力不足に直面した政府は、東欧系難民女性に着目した導入を図った。この政策には、占領コストを下げる目的もあった。女性の定住をめぐって、政府省庁間に思惑の差があった。結局労働力不足のため、難民女性からドイツ国籍・オーストリア国籍の女性へと拡大された。一方、西インド植民地では、「イギリス帝国臣民女性」が失業している中で外国人女性がイギリス本国に導入されることへの不満が高まり、保健省・労働省、植民地省、植民地政府の考えが鋭く対立した。実験的な導入計画が実行されたが、この計画によって導入された西インド出身女性は少数であった。しかし、「帝国臣民」という立場を利用して、西インドからの移民は戦後増加する。1940年代には女性は少数であるものの50年代半ばまでに当該の職に西インド出身女性が就くことは一般的となっていた。 労働力確保が困難な職場においてイギリス人にとっての「好ましさ」に従って労働供給源を求めた例と考えられる。その中で西インド出身の「有色」女性は最下位に置かれた。また、失業中のアイルランド出身男性が女性の仕事を希望したときには、性的分業を楯にこれを拒否した。イギリスの労働市場はジェンダーとエスニシティによって分断されていた。 なお、本年度発表論文は、戦後社会におけるジェンダーのあり方を検討するために、戦後復興における女性国会議員の役割に注目したもので、昨年発表した論文の続編である。
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