研究概要 |
本年度は,以下の2つの検討課題に沿って調査研究をおこない,学会報告と学術論文のかたちで成果を公表した。 1.福祉資本主義(welfare capitalism)の形成について 1920年代に進展する福祉資本主義の源泉は,革新主義期の労務改革と管理運動の中にたどることができる。この時代に,企業の労務政策をめぐる状況に次のような大きな変化が起き,それを土台にして福祉資本主義は現れた。第一は,労務管理が「科学」として認知されるようになったことだ。労働の諸局面について,専門家協会の設立,人事管理マニュアルや専門雑誌の公刊,大学教育との連携がすすみ,人事管理や労使関係管理が高給を受けとる専門家の仕事だと見なされるようになる。これが経営内における人事担当者や労使関係管理者の地位を背後から支える働きをした。第二に,能率観が変化した。大量生産職場に就労する南・東欧系移民は,かつては機械の歯車のごとき使い捨て部品ぐらいにしか思われていなかった。だが次第に労働者のモラールと能率との間に密接な関係があるとの理解が生まれる。 この研究のエッセンスは,「福祉資本主義の形成」(経営史学会編『外国経営史の基礎知識』有斐閣)にまとめたが,紙幅の関係で議論を尽くしておらず,目下それをふくらませる作業に取りかかっている。 2.安全運動の研究史的位置づけ アメリカの安全運動を「環境経営史」という新視角から位置づけるための準備作業として,この領域の研究文献について詳細な目録を作成した。これは昨年3月に公表した論文「環境経営史-経営史・環境史・産業エコロジーへの問いかけ-」(『アメリカ経済史の新潮流』所収)で紹介した文献をベースにして,さらに精査したものである。なお,経営史学会関西部会において,近年進展の著しい環境史と技術史との交流について報告した。
|