研究概要 |
本研究は、為替制度採用における「協調の失敗」に焦点を当てて、国際協調がなければ最適な為替相場制度(通貨バスケット制度)を採用することができない場合があることを理論的に明らかにしたOgawa and Ito(2000)の研究に依拠して、国際金融システムのアーキテクチャーを構成する1つの要素として、各国が採用する為替相場制度及び各国間の国際通貨協調の問題を実証分析によってアプローチする。為替相場制度及び各国間の国際通貨協調については、東アジア諸国において共通の通貨バスケット制度を採用するなど、国際通貨協調が行われた場合に、域内通貨間の変動性が限定されるなかで、各国で発生する特異なショックが吸収されうるのかどうかが問題となる。 このような問題は、最適通貨圏の理論で分析され、各国間の需要ショックや供給ショックの対称性を分析することによって実証的に確かめられている。例えば、Bayoumi, Eichengreen, and Mauro(2000)が構造VARモデルを利用して、ASEAN諸国について分析している。しかし、構造VARモデルによる分析の問題点は、どの通貨をアンカーとすべきかという問題を分析できないことである。そのため、本研究では、アンカー通貨を明示的に導入しながら、最適通貨圏を実証的に分析することができる「一般化購買力平価モデル」(Enders and Hurn(1994))を利用して、分析を行う。この分析方法は、ドルと円とユーロの通貨バスケットに対する東アジア諸国通貨の為替相場のデータを利用して、error correction modelによってこれらの為替相場の定常性(長期的安定性)を分析する。その分析の結果として暫定的にドルをアンカー通貨としたケースよりも通貨バスケットをアンカー通貨としたケースにおいて共通の通貨政策を採用することが出来る国の範囲が広くなることが示された。
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