研究概要 |
Hancock(1991)によって提示された金融企業のユーザー・コスト・モデルをプロトタイプとし,従来のモデルを確率変数としての外生変数,リスク回避的態度,情報の非対称性自己資本効果,企業間の戦略的相互依存性などの点で拡張したモデルの作成を試みた.作成された理論モデルは利潤と自己資本に依存した通時的効用に基づく不確実性動学モデルであり,これより従来のユーザー・コスト・プライスを一般化したプライス("一般化ユーザー・レヴェニュー・プライス","GURP")と,それを用いた市場成果指標("一般化ラーナー指数","GLI")を導出した.理論モデルに基づき,貸出金利関数,貸倒引当金繰入・償却率関数,労働需要関数経常財需要関数,各資産及び負債に関するオイラー方程式からなる実証モデルを構築した.実証分析に使用したデータは都市・地方・第2地方銀行に関するパネルデータ(1982年〜2001年)であり,2期間(1982〜1990年,1991〜2001年)に分けて推定が行われた.理論・実証分析の結果,次のような知見が得られた.第1に,貸出GURPは次の4つの部分からなる.すなわち,(1)貸出保有収入率と割引率(資本の機会費用)との差,(2)利潤の限界効用の増加率,(3)市場の不完全性による価格低下,(4)正の自己資本純効果(自己資本の限界効用からそれに伴う価格非効率を引いたもので正の値のもの)である.第2に,これらを2期間で比較すると,いずれも((3)は絶対値で見て)期間I(1982〜1990年)よりも,期間II(1991〜2001年)の方が大きく,その結果,貸出GURPは0.95(%)から2.48(%)に上昇している.第3に,貸出の自己資本純効果は(モデルで定義された)自己資本(比率)が高いほど正の可能性が高く,自己資本(比率)は保有資産のリスクを債権者に伝えるシグナルとして機能する.第4に,GLIは期間Iよりも期間IIの方が大きく(0.0984,0.711),貸出市場の不完全性は増大している.
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