研究概要 |
今年度はまず,初年度のモデルを資産価格論(asset pricing theory)の観点から見直し,前年度の理論的精緻化によって導出されたモデル(conjectural user-revenue model, CURM)を次の点で発展させたモデル(generalized user-revenue model, GURM)を導出した.すなわち,(1)保有収入率及び保有費用率に不確実性を導入するとともに,(2)金融企業の効用関数は準可変利潤だけでなく,自己資本にも依存するものとした.(1)より,保有収入(ないし費用)率の不確実な部分と確率的割引因子(stochastic discount factor)との共分散で表されるリスク調整(risk adjustment)項がCURMに導入され,準可変利潤変動リスクを明示的に考慮できるようになった.(2)より,自己資本と準可変利潤の限界代替率で表される自己資本効果(capital effect)がCURMに導入され,財政難費用負担リスクを(間接的に)考慮できるようになった.これらの導入により,前年度導出したstochastic user-revenue price(SURP)及びconjectral user-revenue price(CURP)がgeneralized user-revenue price(GURP)として拡張されると同時に,generalized Lerner index(GLI)も拡張され,こうしたリスクを考慮した分析が可能となった.次に,GURMの観点から前年度の推定結果を見直し,あらためてGURPを推計し直すとともに,GLIも拡張されたGLIとして見直し,再推計を試みた.その結果,次の点が明らかになった.第1に,1991〜2000年度の貸出のGURPを見ると,中小銀行では,GURPの67〜68%が自己資本効果とリスク調整効果の合計で説明されるのに対し,大手銀行では,GURPの75〜113%が保有収入率の残高弾力性によって説明される.第2に,貸出市場の拡張されたGLIを見ると,中小銀行では,GLIの52%(1982〜90年度)〜63%(1991〜2000年度)が保有収入率の残高弾力性以外の要因(自己資本効果+リスク調整効果+プライシング・エラー)によって説明される.
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