本年度は、金融サービスの利用者として個人と中小企業を取り上げて分析を行った。個人金融サービスに関しては、住宅ローンについて分析した。住宅ローン市場では、1990年代中頃から自由化が進み、さらに、特殊法人改革の一環として、住宅金融公庫の廃止が決まるなど大きな変化が起こっている。しかし、自由化が個人に十分な利益をもたらしているとは限らない。特に、住宅金融公庫の廃止は、金融機関が少ない地方での住宅ローン市場の寡占化を促進する可能性がある。この点を、実証的に分析したのが、「利用者の視点から見た住宅金融改革の成果と課題(前編)-新商品の登場と借入金利の変化を中心に-」(『住宅金融月報』2004年7月)、「利用者の視点から見た住宅金融改革の成果と課題(後編)-地域の住宅金融市場への影響を中心に-」(『住宅金融月報』2004年8月)、「住宅金融における市場分断仮説の検証-金利データを用いた分析-」(『会計検査研究』31号2005年3月)である。次に、個人にとって重要な役割を果たす銀行店舗が近年、銀行のリストラの影響で減少している点を分析したのが、「民間金融機関の経営計画と店舗ネットワークの変化」(『貯蓄経済季報』平成16年秋号2004年10月)である。さらに、Journal of Insurance Regulation所収の論文では、規制が既存企業の利益になっていることを、日米保険協議による保険市場の自由化を題材にして実証的に明らかにした。 一方、中小企業金融に関しては、リレーションシップバンキングの機能強化という視点から、様々な分析を行った。2004年3月に行った約8000社に対するアンケート調査に基づいて、東海地域の金融構造を明らかにした『東海地域の産業クラスターと金融構造』(多和田眞・家森信善編 中央経済社2005年3月)が、このテーマにおける主たる成果である。
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