株式市場における作為的相場形成が行われる市場の環境およびその背景を明らかにするために、主として以下の二つの観点から研究を行った。一つは、証券取引等監視委員会による証券市場のエンフォースメントに関する現状分析である。平成四年に設立された証券取引等監視委員会は、その機能、活動状況を見たとき、いくつかの課題があることが明らかになった。第一に、監視機能重視の組織のあり方であり、米国のSECなどのトータルな規制機関としての役割を求める事はできない事である。第二に、市場規模に対して十分な監視機能を果たすには、監視委員会の体制の整備が必要な事である。第三に、市場監視に必要な権能についてはコンセンサスが得られておらず、有効な取り締まり手段の検討が必要な事である。その他、国際取引や情報革命などへの対応といった事への対応についても課題が残されている。 もう一つは、風説の流布といった情報の市場への流入が相場形成に至るプロセスに関する分析である。上場個別銘柄日次収益率および各個別銘柄毎の取引高に関するデータベースの構築を行った。個別銘柄の相場形成に影響を及ぼす情報とその価格への伝播プロセスを理解するため、取引高を市場への情報流入量の代理変数として扱い、情報流入仮説を検証した。その結果、第一に情報流入のあり方自体に構造をモデル化する必要があること、第二に、いったん価格の変動性が高まると情報流入の影響と識別できないこと、第三に異常値と考えられるような大規模な情報流入は市場全体で見ても限られており、データの制約が発生するためモデル推計の有意性に問題が生じること、第四に、パラメタライズされたモデルを仮定した場合、推計結果の解釈には恣意性が大きく影響するため、セミパラメトリックなモデル設定が必要なことなどが明らかになった。
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