研究課題
基盤研究(C)
本研究は、(1)欧州経済のICT化の現状とその影響に関する実物分析、(2)EU域内各国と日米の部門別資金過不足の長期時系列比較分析を遂行する金融分析、(3)EUによる「ICT化と成長企業のための金融インフラ形成」政策の評価からなる。3年間の研究を通じて得られた知見は以下の通りである。第1に実物側では、EU経済の情報化は進展しているものの、それが1990年代後半の米国のように生産性の上昇と潜在成長率の引上げをもたらすには至っていない。第2に金融側では、2000年にはヨーロッパの株式市場もハイテク株・通信関連株などを中心に大きく値を下げ、いわゆる実物経済の成長軌道への転換を示す1990年代後半の「金融構造変容交差」(=資金循環勘定の赤字主体の政府部門から企業部門への転換)が、域外の米国経済の成長と欧州域内資産市場のバブルという脆弱な基盤の上に生じていた一過性の現象であったことが明らかとなった。第3に、EUの政策評価に関しては、FSAP(金融サービス行動計画)および「ラムファルシー委員会報告」にみられるEU証券立法過程の改革は、欧州経済のICT化や成長のための金融インフラ形成を目的としたものであると位置づけられた。とはいえ、2000年のバブル崩壊以降の欧州経済、とりわけドイツ経済の停滞のなかで、これらの改革は目に見えた成果を挙げていない。現在は、こうしたEUの金融インフラ形成政策のグランド・デザインを示してきた「リスボン戦略」自体の総括と見直しが行われている段階であることが明らかにされた。2000年のバブル崩壊後の欧州域内の資金循環については、引き続き国別の詳細な分析と比較が必要である。また本研究期間終了後に、リスボン戦略の見直しとポストFSAPの基本方針が検討されている。さらにEU域内外の成長エリアである中東欧およびアジアで得られた個別の知見をもとに、資金循環の視点から停滞する欧州コア諸国と比較検討する展望が開けている。ともに、今後と課題としたい。
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