1 本研究では、わが国における中小企業向け貸出市場への公的な支援介入政策のうち、従来あまり注目されていなかった信用保証と地方自治体の制度融資をとりあげ、それらの効果を分析するため、情報の非対称性にもとづく理論モデルを開発するとともに、制度融資データを収集し、それをもちいた実証分析を行った。 2 理論研究では、中小企業向け貸出市場の特性である借手の多様性をとらえるため、Hillierなどによって提唱された二次元非対称情報という概念に注目し、二次元非対称性を組み込んだ逆選択モデルを定式化した。モデル分析の結果、借手間の内部補助のパターンの重要性が明らかとなり、競争的市場における資金配分の非効率性の性格、公的な介入の諸手段(金利補助、信用保証)の効果などを比較検討することができた。とくに信用保証の政策パラメータ(保証料、カバー割合)の組み合わせの適切な選択により、資金配分の効率性を改善できることが明らかになった。 3 実証研究においては、都道府県ごとに保証の利用、代位弁済、中小企業向け貸出、業態別シェア、倒産状況、地価、GDPなどに関するデータをもちいて、保証関数、代位弁済率関数などのパネル推計を行った。従来の研究では理論モデルが不明確なため、各説明変数の解釈がむずかしい場合があったが、本研究ではそれが改善されることがメリットであり、現在、実証結果を取りまとめ中である。つぎに、制度融資については、従来包括的な実績データの入手が不十分であったが、全国の都道府県ほぼすべてについて制度融資の実績ベースの金額を得ることができた。各種制度融資それぞれの性格を検討し、その性格ごとの分類、集計を行った。予備的な実証として、クロスセクション分析によって、制度融資についての政策反応関数的な分析を行った。さらに、制度融資の効果を検討するため、パネル推計により、保証との連関をも考慮した推計作業を実施中である。
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