本研究は、預金者による規律付けの理論分析と実証分析の2部からなる。 理論分析では、預金保険のもとで、預金者による銀行の選別がどのような条件で起こりうるのか、また、預金者による銀行選別がどのように銀行経営者のリスクテークに影響を及ぼすかを解明した。とくに、政府による銀行救済政策が預金者による規律付けを無効にし、銀行のリスクテークを助長してしまうことが強調されている。 実証分析では、90年代における日本の全国銀行のデータを用いて、預金者が銀行の破綻リスクに応じて銀行を選別しているかどうかを検証した。実証結果によれば、主要行では、預金増加率とリスク指標との相関は弱く、預金金利とリスク指標との相関も有意ではない。他方、地銀では、預金増加率及び預金金利のいずれも、リスク指標と有意に相関している。これらの結果は、預金者による規律付けは地銀に対してのみ有効に機能していたことを示唆している。他方、劣後債残高や公的資金注入量の決定要因などを分析すると、それぞれ、収益性が低い、あるいは破綻リスクの高い銀行ほど劣後債や公的資金(特に、98年3月期の資本注入)による支援策を活用する傾向が見られた。劣後債については、系列生保との持ち合い分もBIS規制の自己資本に算入することが認められるなど、政府の救済・支援策の一環であると考えられる。したがって、これらの救済・猶予政策の主な対象であった主要行では、預金保険の発動が回避されると予想されたことから、預金者の市場規律が機能しなかったのではないかと考えられる。
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