研究概要 |
本研究は、預金者による規律付けの理論分析と実証分析の2部からなる。 理論分析では、預金保険のもとで、預金者による銀行の選別がどのような条件で起こりうるのか、また、預金者による銀行選別がどのように銀行経営者のリスクテークに影響を及ぼすかを解明した。とくに、政府による銀行救済政策が預金者による規律付けを無効にし、銀行のリスクテークを助長してしまうことが強調されている。 実証分析は、90年代における日本の全国銀行のデータを用いた研究と、世界の銀行のデータを用いた研究からなる。 まず、日本の実証結果によれば、預金増加率と預金金利はそれぞれ銀行のリスク指標との負、正の相関が見られ、預金者による選別行動が観察された。特に定期預金の増加率とリスク指標との相関は、ペイオフ解禁(2002年3月)の直前に高まっており、預金の全額保護措置がリスク感応度を低めていたことがわかった。 次に、世界63カ国の約20,000に及ぶ銀行・年データと各国の銀行規制や法制度などのデータを整備して実証分析を行った(鶴光太郎氏、岩城裕子氏との共同研究)。この結果、銀行規制が甘いほど、また、法による統治の程度が低く、金融資本市場が未発達なほど、預金者のリスク感応度は高く、預金者による規律付けが機能していることがわかった。これは、規制当局が預金者の代表として銀行を監督するという「代表仮説」と整合的であり、政府による規制と市場規律が代替的に機能していることを示唆している。
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