本研究は「中小企業、経済発展と金融制度」の問題を理論的かつ実証的に分析することであるが、「貨幣金融制度と経済発展」(平成10年〜13年度科学研究費補助金研究、課題番号10630094)の研究の延長線上にある。本年度の研究内容は次の通りである。 (1)本研究プロジェクトの基礎となる「情報の経済学」を一般向けに「非対称情報の経済学 スティグリッツと新しい経済学」(光文社2002年7月)にまとめた。本書では、情報の経済学から「組織と制度」また現在問題となっているマクロ経済現象である「失業と貸し渋り」がどのように説明されるかを明らかにし、さいごに90年代の日本経済の低迷をもたらした制度的要因を指摘した。 (2)次に、これまで行ってきた中小企業金融に関する理論と実際を『中小金融企業入門』(武士俣友生共著編)にまとめた。ここでは、非対称情報の観点から中小企業に対する金融制度を分析した。またそこでは、日本とアメリカの中小企業金融の実態を明らかにし、それらを比較することから日本の中小企業金融のあり方を考察した。本書は、本研究での「中小企業と金融」に関する問題を分析する上で不可欠な情報を提供する。 (3)三番目の研究は大学院生鈴木久美氏との共同研究である。2002年度日本金融学会春季大会で論文「中小企業への貸出金利に影響を与える要因の考察」を発表したが、それを「中小企業への貸出金利に関するパネルデータ分析」に改訂した。国民生活金融公庫総合研究所が実施したデータを利用したものであるが、このデータにおいては個々の中小企業が借り入れるときの利子率が含まれているという点でめずらしいものである。その借入利子率がどのような要因に依存しているかを実証的に分析したものである。分析結果、企業の借入金利に影響を与える要因は安全資産金利、確実に流動的な資産、および業態であった。一方、財務諸表の情報の影響は明らかでなかった。
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