研究概要 |
本研究の目的は,金融・資産管理教育が家計の金融資産選択行動に及ぼす影響を明らかにし,家計が最適な金融資産選択を行う上で必要かつ重要であると考えられる知識(教育内容)を検討することにある.我々は家計が金融資産を選択する際に必要な知識を保有していないことが,家計の資産選択行動に歪みを与え,その結果,元本保証型の金融資産に偏った運用を行わせているのではないかという仮説を提示し,教育が家計の資産選択行動に与える影響の分析を試みた.ただし,我が国では現在のところ体系的な金融・資産管理教育は始まっておらず,教育の影響を示すデータの入手は困難であるため,金融資産管理に関する知識をほとんど保有しない大学生に金融・資産管理教育を提供し,新たな知識を得るごとに各々が最適と信じる資産配分比率を示してもらうことでデータを得た。現段階では,(1)個々の金融資産に対する詳細な情報を得ることが可能になれば,ハイリスク資産への資産配分比率が上がる可能性があるものの,(2)教育によって劇的に資産保有行動が変化することはない,という暫定的な結論を得た。この結論は,家計にリスク資金の提供者としての機能を期待する声や,昨今その長期的な効果が期待され,盛んに行われるようになった投資教育や大学における寄付講座の効果を考える上では,皮肉な結果といえるだろう。もちろんゲーム参加者の効用関数やマーケットに対する予測を表す変数を用いることなく行ったこの分析には,限界があり,今後リスクに対する姿勢の異なる集団を分類して分析を行うなどの改善が必要である。
|