研究概要 |
本研究の目的は,金融・資産管理教育が家計の金融資産選択行動に及ぼす影響を明らかにし,家計が最適な金融資産選択を行う上で必要かつ重要であると考えられる知識(教育内容)を検討することにある。本年度の目的は,従前の研究を発展させる過程として,被験者をリスク回避度,教育提供の有無,教育内容の理解度別にグループ化し,調査期間中の各グループのハイリスク資産,ミドルリスク資産,ローリスク資産への資産配分比率の推移を観察することにより,各グループに属する被験者の資産選択行動と金融教育の関係を明らかにしようとするものである。分析の結果,被験者の資産選択行動は市場状況に多大な影響を受けるものの,体系的な金融教育は,被験者の行動をより合理的なものへ変化させる可能性があることが示された。 データを観察した結果,運用期間の長短に関わらず,市場状況が被験者の資産選択行動に多大な影響を与えていることが明らかとなった。このことは,純粋な教育の効果を論じるためには,市場の状況など,教育以外の要因によって被験者が資産配分を変化させる可能性を分離する必要があることを意味すると考えられる。しかしながら,リスク回避度の低いグループは資金をよりリスクの高い資産にシフトさせ,リスク回避度の高いグループは資金をよりリスクの低い資産へシフトさせるなど,体系的な金融知識の獲得によって,被験者が自ら許容できるリスクに見合った資産配分を実現できるようになった可能性も示された。また,どのグループも最終的に,運用期間2年の資金のハイリスク資産への配分比率を,運用期間10年の当該比率よりも小さくしており,被験者が流動性リスクに配慮したポートフォリオの構築を行なうようになったという点で,知識の獲得が与える効果が示唆された。なお,教育の理解度が高いグループは,一般的に,理解度の低いグループや教育を受けていないグループと比較して,その金融資産選択行動がより大きく変化していることも明らかとなった。
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