本研究の主成果として第1に、独自の現地調査や各種報告の分析あるいはロンドン大学教育インスティチュートの高等教育マネジメントMBAコースの調査等から専門職主義とのかかわりでの「ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)」の実態と特質を捉えることができた。NPMとは民間企業の現場主義的なマネジメント手法の多様な導入の流れと制度条件における「契約」関係への転換との結合物である。「専門職社会」で知られる英国の経過は当初の「効率性追求」から「目標に顧客を置きつつ脱官僚制的構造への組み替えをセットとしたマネジメント手法」へと典型的な展開が見られたが、その対抗物として公共サービスや高等教育の特性を踏まえた固有性を担う専門職のマネージャー化を促すNPMもまた登場したことが英国におけるもうひとつの特徴である。 第2に、NPMはPPBSの挫折から生まれたとされるが、1960年代合衆国におけるPPBSが「テクノクラートの技術主義的挫折」と見られるのに対して英国(70年代に一部導入)では「福祉国家専門職との衝突」と特徴づけられる。90年代後半OECD諸国にNPMを組み込んだ予算制度改革が登場し、トップダウンによる総額抑制ルール(英国では雇用調整を設定したゴールデン・ルール)のもとで「配分における優先順位」獲得のマネジメト競争を促す環境が強められたが、英国では高等教育の質を維持・発展させるためのマネジメント能力向上とマネージャー養成の課題が緊要視されることが見られた。 第3に、「第3のミッション」などへと拡張する「高等教育の質」財政においては、パーキンの「専門職社会」論を検討することを通じて、「アカデミック専門職」と「ノン・アカデミック専門職」との協働関係再構築の重要性を取り上げた。「ポスト工業社会」において専門職主義が「公共部門から企業部門(マネジメント・プロフェッショナル)へ」シフトするとの考えは単純に過ぎ、現実には両者の新しい協働関係の構築へと結果せざるをえないように思われる。それらは非営利組織としての英国大学、日本私立大学の学校法人、国立大学法人に見る共通する現象として見ることができる。
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